< 撮影機材 Hasselblad 907X 100C Hasselblad XCD 38mm f2.5 >
福島に3日滞在した内、雪が降ったのは真ん中の一日だけだったので、3日目の朝が明けるともう雪はかり減っていた。
それなら標高の高いところへ移動しようということになって、一度西郷村へ降りてから一気に那須岳の方へ昇り返した。
そのままMr.ジーンズスキー場の横をすり抜けるようにして、那須平成の森に到着する。
けれど、標高が1000mある那須平成の森にも、今年は例年の 1/10 程度の積雪で少しがっかりだったが、
さすがに標高が高いだけあって、到着食後に、曇天だった空から粉雪が舞い始めた。
気温が低いので舞い落ちる粉雪がすぐに溶けることはなさそうだったけれど、どんどん積もるほどの降りでもないようだ。
トレッキングをするのにはあまり降りこまない方がいいので、とりあえず善しとしよう。
こんな悪天の日に平成の森を訪れる人は他におらず、閑散とした駐車場に車を停めてフィールドセンターに入った。見慣れたセンターの内部だけれど、冬にやってきたのは初めてだったので、ずらりと並んだスノーシューやストックが目を惹いて、なんだか物珍しい光景。
雪が少ないからスノーブーツのままで森の中を歩けるというので、フィールドセンターの近くだけでも回ってみようかなと思った時に、レンジャーの方が声をかけてくださった。
「今日はお客さんもいないし、森の見回りに行くのですが、一緒に来ますか?」
願ったりかなったりで、大喜びで同行することにする
森に出て、動物の足跡を追ったり、幹から染み出てそのままツララのように凍ったのを舐めてみたり、笹藪の奥にあって雪に覆われないと近寄れないという、樹齢400年の大きなブナの木に会いにいったりしながら、森の中を歩いた。
白樺の樹液が甘いのは知っていたけれど、冬季のシラカシの木の樹液も徐々に凍るうちにツララの先端に糖分が凝縮するということで、ツララの先のところだけを舐めてみると確かに甘い。
何より、誰も歩いていない足跡のない森の中を、雪を踏みながら歩くのがとても楽しかった。
冬季は笹が雪で潰れているので、道を逸れてどこにでも歩いて行ける。
レンジャーの方と一緒なら道に迷うこともないので、安心して横道に逸れて歩いた。
雪の中には、本当にたくさんの動物の痕跡が遺されている。
カモシカの足跡、鹿の足跡、ウサギやテンの足跡・・・中でもキツネの足跡は4本の足の跡がまっすぐ一直線の上に並んでいて面白い。忍者みたいに忍び足で歩いている様子を思い浮かべて思わず笑ってしまった。
平成の森はほとんどが落葉樹なのだが、森の奥の方にポツンと大きな樅ノ木が立っている。
樅ノ木は巨大な傘のように冬でも葉を茂らせているので、雨や雪を避けて、その下にたくさんの動物たちが集まって来る。
木の下は足跡だらけだ。
森の中の樅ノ木の下は、サバンナの泉のように、山の動物たちが集う場所だ。
足跡だけではなくて、木の幹には何種類もの動物の毛が付着しているし、牡鹿が角を研いだ跡もある。
牡鹿にとって角は強さを誇る象徴であると同時に、強力な武器でもあるので、先端が鋭く尖るまで、木の幹にこすりつけて砥ぐのだそうだ。
牡鹿の角を研いだ跡より少し下には、猪が牙を研いだ跡も残っている。
それだけではない。森の中には、他にもたくさんの動物たちの気配で満ちている。
ムササビが棲み家になった木の穴の下を通るとその視線を感じたし、
森の所々にあるヤドリギを見つけると,実を食べにくるレンジャクの羽ばたきに耳を澄ませた。
ブナやミズナラなどドングリのなる木には、時折、熊の大きな爪痕が付いている。
かなり高いところまでついていて、熊が木登りが得意なことがよくわかる。
アカゲラが開けた大きな木の穴を動物達がさらに広げて、心地良い住まいを作っているのだが、今年の冬は空き家になっている優良物件もいくつかあって、それらの物件をレンジャーさんと確かめながら歩いていった。
森の中の優良物件を把握して、その住人達を見守ることもレンジャーさんの仕事なのだ。
動物達は毎年同じ物件を棲み家とするわけではなく、順繰りに替えていくので、森の住民台帳は毎年変わる。
まだ確かに冬の森だったけれど、樹々には冬芽が大きく膨らんでいていて、春の日差しを待つ準備は十分にできていたし、森の中を流れる白戸川の水もなんとなく春めいてきていて、流れが柔らかく感じられた。
以前にも書いたけれど、平成の森は極力人の踏み込みを避けている森なので、冬の日に山の動物達と密かな交流ができたことはとても嬉しいスノーハイクになった。
案内をしてくださったレンジャーさんに感謝の気持ちをお送りします。
ありがとうございました。
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