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Tropical Leaves

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Bloblog  page      by   izumi  suzuki

夕暮れ迫る



<  撮影機材   Hasselblad X2D 100C Hasselblad XCD 38mm f2.5 >



山奥の小さな池の畔に長居していたら、日が暮れかけてしまった。

呑気に写真なんぞ撮っている場合ではなくて、帰り道を急がねばならない時間なのに、

暮れなずむ池の水面が一心に光を集めているように輝いていて、

その美しさに惹かれて佇んでいた。


対岸の森の中はとうに光を失って、闇に包まれ始めている筈だ。

人間の時間は終わって、今からは森の精と動物達の時間が始まる。



***



日が沈んでから、闇に包まれる直前の時間がとても好きです。

ブルーカラーに覆われるマジックアワーは、

同じマジックアワーでも、オレンジの光に溢れる日没時よりずっと神秘的で魅かれるものがあります。


平安時代には、夜が完全に更けてしまうと「百鬼夜行」という魔物達の大行進が始まると信じられていて、

その百鬼夜行に万が一遭遇すれば、たちまち魂を奪われて死んでしまう。

だから日が暮れてからの外出は控えていたのだそうです。

その直前の夕闇の時間は「逢魔時」(おうまがとき)と呼ばれていて、

人々は魔物が出没し始める時間として警戒し、ひたすらに家路を急いでいました。

灯りの乏しい時代では、ブルーアワーを楽しむ心のゆとりはなかったようです。


ですから、そんな薄闇の時間をこわごわ歩いている時に、「誰か」に出会うとギクリとする訳です。

「誰か」は人ではなくて、もしかすると妖怪か魔物かもしれません。


その「誰か」が、たまたま道を尋ねたいと思っている人で、

「もし・・・」と呼びかけようものなら、相手は脱兎のごとく逃げ出します。

何故なら、「もし・・・」という呼びかけは妖怪がかける言葉の定番だから。

時代劇を見ていると、柳の下の幽霊は必ず、か細い声で「・・もし・・・」と呼びかけていますよね。

これを、妖怪の「一声呼び」というのだそうです。


万が一、うっかりとこの一声呼びに返事などしてしまおうものなら、

取り憑かれたり、魂を吸い取られて死んでしまうと、当時の人は信じていました。

だから、絶対に返事をしてはいけないし、一目散に逃げなければなりませんでした。

柳田國男さんの著書によると、この事はかなり広い地域で言い伝えられていたようで、

地方によっては日が暮れてから「もし」と呼び止める行為は、

人を脅かす行為として禁じられていた処まであったようです。


それでは、薄暗がりの道で知り合いに出会ったり、道を尋ねたりしたい時、どうしたらいいのか?

「もし、もし」と呼びかけます。

妖怪は「繰り返し言葉」を使うことができないと信じられていたからです。

呼びかけを二度繰り返すことで、こちらが人間であると伝えたのですね。


実は、皆さんもこの妖怪封じの言葉をしょっちゅう使っていらしゃいますよね。

そう・・電話で・・

日本に始めて電話がやってきた明治時代、

電話線の向こうから聞こえてくる声は、余程薄気味悪く感じられたのでしょうね。

だからお互いに「私は人間ですよ。」と、「もしもし」の挨拶をするようになったらしいです。

昨今はAIが簡単に「もしもし」と言ったりするので、人間の証拠にはなりにくいような気もしますが。


さて、この夕暮れ時を、日本語では「黄昏」と表現しますが、

この語源は、薄暗くて相手が誰だかわからないので

「誰たそ、彼は」 → 「あなたは誰ですか?」

から「たそがれ」という言葉になったのだと言われています。


同じように、明け方まだ日が上らないうちのブルーカラーの時間、

やはり薄暗くて相手が誰だかわかりにくいのですが、

この時間帯を「かわたれ時」と言います。

この「かわたれ」も「彼は誰」 → 「あなたは誰?」が語源のようです。


昔の日本人は、同じブルーカラーのマジックアワーでも朝と夕方で区別していたのですね。

朝は魔物や妖怪が去っていく時間なので、同じような暗さでも怖ろしい時間ではありませんでした。

だから、朝の薄闇を「逢魔時」とは言いません。



***



話は戻って、この池からの帰り道、車を停めてある所まで40分足らずでしたが、

霧も出てきたし、おり悪しく雨も降ってきて、正真正銘の「たそがれどき」になりました。

森の中にじわじわと闇が降りてくると、さわさわ鳴る風の音も昼間のそれとはどこか違う気がして、

木立ちの向こうに何かの気配を感じるような・・

森の精の「早くお帰り・・」という囁きが聞こえてきそうで、身を竦めて歩く中、

静かな森には「チリン、チリン」と私のクマ鈴の音だけが妙に大きく響いていました。

林道が広くてはっきりしていて、迷うような道ではなかったけど、

珍しく心細くなってきて・・・

ヘッドランプを出そうか迷ったけれど、なんとかぎりぎり使わなくても済んで、

足元が見えるうちに私の車が見えてきたので、ほっとしたなんてものではありませんでした。



そして歩いている間中、一声呼びが聞こえたらどうしようとドキドキしましたが、

「・・もし・・・」と呼び止める声にはとうとう出会いませんでした。(笑)

良かった。







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